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 大陸の東端にある魔王領――ここ百年ほどで、これまで大陸に散見していた魔族たちが築き上げた忌むべき国に足を踏み入れた私は、共に国を出た神官のレインに目配せをした。

 

「ここが魔王城……レイン、いけそう?」

「勿論。僕の使命は勇者である君の援護だ……君が心置きなく戦えるように死力を尽くしましょう」

 

 レインは母国――メーデルダリン聖王国の上位神官だ。魔王を倒すために幼い頃から神殿に仕え、同じく勇者として育てられた私と共に育ってきた。

 稀有な白魔術の熟達者である彼の前には、あらゆる悪が塵と化す。回復と攻撃の双方を行える彼の白魔術のおかげで、魔王城への旅を続けることができたと言っても過言ではない。

 

(まぁ……もう仲間は、私たちだけになってしまったけれど……)

 

 三百人以上いた勇者軍は、今や私たち二人きりだ。

 それでも魔王討伐の命を背負って国を出た以上は戦果を挙げなければならない。国に帰ることができるのは魔王の首を落とした時か、私たちが死体になった時だ。

 

「行きましょう、勇者様。必ず魔王を討伐してメーデルダリンに帰るんだ」

 

 力強く頷いて、レインとともに魔王城に足を踏み入れる。

 天の御使いのように美しい金髪を揺らして、レインは流暢に詠唱を始めた。

 魔王城の城門に集まってきた下位魔族たちは彼の白魔術で散り散りになってしまう。

 

(流石、最高位の白魔術――これなら私も……)

 

 レインが放つ魔術の矢は、決して私を傷つけない。

 彼の高い魔力制御があるからこそできる芸当だが、おかげで私は聖王国の秘宝である聖剣を抜き、聖盾を片手に突き進むことができる。

 

「神の裁きを受ける時が来たぞ、魔王クラウジット――!」

 

 立ちふさがる魔族たちを切り伏せ、城門から城の中へ突入する。

 私に一歩遅れてレインも城内へと駆込むと、城の分厚い扉は再び固く閉ざされてしまった。

 

「……勇者様、気を付けて。多分この感じ――クラウジットはこちらを見ています」

「な……聞きしに勝る魔王の千里眼、か……レイン、魔力の逆探知はできる?」

「いえ……この城全体が魔王の体の中みたいになっていて……恐らく、人間じゃ逆探知は不可能だ」

 

 悔しそうに歯噛みするレインに、気にする必要はないと声をかける。

 ……実際、役立たずなのは私の方だ。神からの加護を得た勇者である私は、耐魔力と聖剣を使った物理攻撃力だけならば他の追随を許さない。

 だが、魔力の制御となると話は別だ。私はレインみたいに高位の魔術を使えるわけでもないし、索敵や防御などの高い魔力制御を必要とする技術はほとんど使えない。

 

(歴代の勇者には、知と武を両立させた者が多いというのに……私は……)

 

 一瞬頭によぎった暗い考えを、今だけは見ないことにする。

 全ては大陸を混沌に陥れた魔王の討伐を成すため。大義のためなら、私の感情は些細なことだ。

 

「……このまま突き進もう。聖剣の導きに従っていれば、いずれ魔王が向こうからやってくるはずだから」

「大丈夫なんですか? その方法を使うってことは、手当たり次第に敵を倒すっていうことだけど……」

 

 一瞬、レインがぐっと眉を寄せた。

 神官として生きてきた彼はとても心優しくて、最初は魔物を傷つけることすら厭うていたような人間だ。

 だけど、ここは魔王城。敵の本拠地だ。

 戦わなければ骸になるのはこちらの方だし、魔王の討伐を成さなければ私たちは国にも帰れない。

 

「レイン、申し訳ないけど……ここで引き下がるわけにはいかないんだ」

「いや――君が言う通りです。僕が甘かった……最終的に、魔王を倒すことさえできればそれでいい」

 

 ぐっと唇を噛んだレインの顔色は、緊張からかひどく青白くなっていた。

 だが、今はそれにも構ってはいられない。ただ前に進むことだけが正解なのだから、どれだけ数多くの魔族を屠ることになっても歩みは止められない。

 聖剣の柄を握り締める手に力を込めて、一歩足を踏み出した。

 

(この、渦巻くような濃厚な魔力……並の人間ならコレにあてられて、ひどいことになりそう…)

 

 上位神官であるレインの力と、神に賜った耐魔力のおかげでなんとか城を進むことができたが、それでも気を張っていないと倒れてしまいそうだ。

 人間の体に魔力が蓄積すると、適性がある人間は魔族に堕ちるという。

 適性がない場合は体が四散すると聞いたこともあったが、実際に高濃度の魔力をぶつけられるとその意味がよくわかる。

 

「……胃の中が直接かき混ぜられてるみたいだ」

 

 真っ青な顔をしてレインがそう言ったけれど、私もおおむねその通りだと思う。

 内臓を直接鷲掴みにされて、揺さぶられているような感覚――お世辞にも快適とは言えない空間の中を、私とレインはゆっくりと歩き続けた。

 

(まずい、な……奥に行くにつれて魔力濃度が高くなってる。このままじゃ、聖剣を抜くことすらできないかも――耐魔力があって、これほどとは)

 

 濃厚な魔力は、人間の力を奪い魔族の力を増大させる。

 戦う魔族もどんどん強くなっていき、進めば進むごとにこちらは消耗していくばかりだ。

 このままでは、魔王と戦うことすらままならないのではないか――そんな考えが頭をよぎった時、すぐ後ろから悲鳴が聞こえてきた。

 

「レイン!?」

「あ、ぐっ……!」

 

 苦しげな声に慌てて背後を振り向くと、そこに立っているのはレインではなかった。

 いや――レインはまるでひれ伏すように地に倒れ、その眼前には背の高い男が立っている。

 

「……やぁ、勇者ご一行。もっと大軍勢が見れると思ったんだが――神官が一人と勇者が一人。これっぽちか」

 

 射干玉の夜を閉じ込めた、深みのある黒髪。

 長いまつ毛に彩られているのは魅了の魔眼を秘めると言われている真紅の瞳だ。深い色のそれが、ちらりとこちらを向いた。

 

「お前が勇者。ふむ、女の勇者か……歴代でも珍しいのではないか? 歴代魔王が遺した文献にも、女の勇者についての記載はなかったな」

「は、……ぁ、貴様……」

 

 喉が、大きな手に握り潰されているみたいだ。

 声が出ない。身動きが取れない。魔王の足元に倒れ伏しているレインを助けたいのに、聖剣を持った手に力がこもらなかった。

 

「我が名はクラウジット――魔王クラウジット。久方ぶりの客人よ、歓迎するぞ」

 

 にぃ、と唇の端を吊り上げた魔王は、気だるげな仕草で右手を持ち上げた。

 

「ッ……!」

 

 その瞬間、彼の長い指から黒い閃光が迸る。

 咄嗟にそれを避けはしたものの、高純度の魔力によって石でできた城の壁が綺麗にえぐれていた。

 

「なんだ、避けたか……聖剣に選ばれたその資質は確かに伊達ではないらしいな」

「このような……いやっ、お前からやってくるとは思わなかったぞ、魔王クラウジット! ここで私たちの宿願を果たす……レイン、援護を!」

 

 このまま動きを止めれば、次は避けられない確信があった。

 地面に倒れ伏したレインを鼓舞するように声をかけ、聖剣を構える――。

 

「――煩わしいな」

 

 だが、渾身の一撃はそんな呟きと共に空に散った。

 的確に魔王の首を狙ったはずの刃は、華奢なその指先に押さえつけられてぴたりと動きを止める。

 

「ッひ……う、嘘……」

「魔王の体を傷つけられる、唯一の武器――千年前の魔王大戦で聖槍の魔力コアが破損し、それが本当に唯一の武器なのだろう? その割に、お前の力では俺には傷一つ付けられぬようだが」

 

 目元を妖しく細めたクラウジットが、ぐっと片手を握り締める。

 その瞬間――体が鉛になったかのように重くなり、力の入らない指先からは聖剣が滑り落ちて、ガランッと重たい音を立てた。

 

「……児戯だな。聖剣を携えた勇者というから、もっと骨のある人間を期待していたが――」

 

 コツコツと軽い足音を立てて、魔王がこちらへやってくる。

 殺される――今更になって、その恐怖が蛇のように頭をもたげてきた。

 歴代の魔王と勇者が何十回も何百回も繰り広げてきた殺し合いの決着が、私の敗北をもって終わりを告げる――死の恐怖が美しい男の形をとって近づいてくるのを、私はただ眺めるしかなかった。

 

「聖剣自体はお前に馴染んでいるのだろうが――酷使されすぎたな。数千年にわたる魔王との殺し合いで、魔力コアが限界まで摩耗している。その証拠に……」

 

 頭上から、魔王の声が降り注ぐ。

 若い男の穏やかな声に聞こえるはずのその声は、尽きることのない恐怖を私に与えてきた。

 嘲笑うような声とともに、クラウジットは片足を上げ――その爪先で、聖剣の刀身をぐっと踏み抜いた。

 

「あ、や……やめっ……」

 

 パキンッ、と、思ったより軽い音が聞こえたのはその時だ。

 まるで薄氷を踏み抜いた時のような高い音が、城の廊下に響き渡る。砕け散った政権の破片が、爪先で踏みにじられてジャリッと小さな音を立てた。

 

「聖剣、が……」

「次はその盾か。身にまとう鎧も特別な加護を得たものだな――だが、それも薄絹に等しい」

 

 再びその指先が翻ると、今度は左手に携えていた聖盾が。

 軽く爪先で地面を蹴られただけで、体を守っていた聖鎧が打ち砕かれた。

 神から与えられた、数多くの加護を得ているはずの武器がいともたやすく崩れ去っていく――信じがたい光景に、私はすっかり戦意を失って立ち上がれなくなってしまった。

 

「なんだ……抵抗もなし、か。当代勇者は随分と――あぁ、いや……これは……」

 

 呆然自失になった私を見下ろしながら、魔王は口元に手を当てた。

 秀麗な、ともすれば作り物のようにも思える顔立ちが、一瞬ぐにゃりと歪む。

 

(……殺される。私も、レインも……)

 

 その様子に、私は今度こそ自分の終焉を見た。

 は、と小さく息を吐きだし、最後の祈りを捧げるかのようにぎゅっと目を閉じる――だが、その瞬間耳のすぐ横で轟音が響いた。

 

「勇者様、逃げて!」

「ぁ、レ、レイン……」

 

 これまで一度も聞いたことがないような大声で、レインが私の名を呼んだ。

 これまで一緒に旅を続けてきた大切な仲間――最大級の白魔術が、雷の形をとって彼の周りに張り巡らされている。

 

「ここは僕がなんとかする! だから、君は早く城から出るんだ!」

「貴様……これほどまで大規模な白魔術を、ヒトの身で――」

 

 雷の大槍――聖槍を模した巨大な槍の穂先が、魔王の体を捕えている。

 

「お前は、僕が殺す。この命を燃やし尽くしたとしても――……勇者様!」

 

 ぐっと眉を寄せたレインが、叱咤するように私のことを呼んだ。

 長い旅路を共にしてきた、大切な友人。そんな友人が、命を懸けて私のことを逃がそうとしてくれている。

 

「立ち上がって、今すぐ逃げるんだ!」

「で、でも……そんなこと、レインが……」

 

 いくら天才的な資質を有しているレインであっても、これほど大きな魔術を使えば命が尽きかねない。

 彼を置いてこの場から逃げるなんて、それこそ勇者として恥じるべき行いだ。

 そう思って折れた聖剣に手を伸ばそうとすると、更に鋭い声が降ってくる。

 

「剣を取るな! 逃げろ! ……頼む。君を――僕の大切な、……友人を、ここで失いたくない」

 

 血を吐くようなその声に、レインの決意を見た。

 恐らくここで白魔術を展開させたら、魔王だけではなく私やレイン自身も巻き込まれる。私にでもわかるようなことを、彼が計算していないはずがなかった。

 

「……レイン」

 

 私の、たった一人の大切な友人。

 女だてらに勇者となった私を最後まで見捨てず、ここまで一緒に戦ってくれた親友。

 ――彼の決意を無駄にするわけにはいかない。

 

「ごめん、レイン……!」

 

 震える体を叱咤して立ち上がると、背後で雷がいくつも打ち込まれる。

 私だけは傷つけない彼の魔術が炸裂するのを、振り返って見ることはできなかった。

 命を燃やすような雷撃を背後に感じながら、ひたすら足を動かして城の中を駆ける。先ほどまでの体の重さが嘘のように消えていて、聖剣の残骸で襲い掛かってくる雑魚を蹴散らしながら城の外へと走り続けた。

 

「っは……なんで……! 城の中、っ……さっきから同じところ、グルグルしてる……?」

 

 だが、どれだけ走り続けても城の出口はどこにも見つからない。ほとんど一本道の廊下を戻っているのに、気付けば同じ場所をグルグルと走り続けていた。

 

(幻覚? いや、違う……これは、この城自体が……)

 

 魔王城は、魔王の体内も同じ。意志を持っているかのように蠢き、出口への扉を塞いでいるのだ。

 

「くっ……こんなところで……!」

 

 せっかく、レインが命を賭してまで私のことを逃がしてくれたのに。

 こんなところで死ぬのか。たった一人、誰にも看取られずに果てなければならないのか。

 

(あぁ、そうだ――私はずっと、そうだった。レインがいなくちゃなにもできない、だから皆……皆、いなくなってしまった)

 

 今度は、もう限界だった。

 聖剣が踏み砕かれたあの瞬間、私を支えていたものもすべて打ち砕かれてしまったに違いない。

 足を止め、その場に膝をつき――許しを請うように首を垂れる。

 城から出られないのでは、逃げることなど不可能だ。やっぱり私はこのまま、この城に喰らわれて朽ちていくに違いない。

 震える息を吐いて最後の瞬間を待っていると、遠くの方からコツコツコツと足音が聞こえてくる。

 男のものであるのに軽く、独特な足音――先ほどの魔王が、私を殺しに来るためにやってくる。

 

(レイン、やっぱり……)

 

 親友の死を脳裏に思い浮かべても、涙は流れなかった。

 彼と一緒に国を出て、旅をしてきた半年間。その間に起こった出来事はあまりに哀しく、涙も枯れ果ててしまったのかもしれない。

 

「人間というのは脆いものだな。欲望ばかりは淫魔のそれよりも肥大しているくせに、少し小突いてやれば柘榴のように弾けてしまう」

「……クラウジット」

 

 まるで、神託を与える神のごとく。

 悠然とした佇まいは大規模な魔術合戦を制した後とは思えず、まるで食後の散歩をしているかのような穏やかさで魔王は私の前に立っている。

 

「城の入り口を塞いだのか……レインの決死の白魔術を防ぎながら、城内の構造を入れ替えたな……!」

「然り。あのレインとかいう神官、アレの豪胆さには驚いたよ。命の灯を燃やし尽くすとは無謀の極地ではあるが……思ったよりもひどい状態だったな、アレは」

 

 嘲笑うような声も、命を軽んじるような言葉も、すべては私の無力に帰結する。

 頭の中に思い浮かぶ嘲笑と侮蔑の視線が体を絡めて、顔を上げることもできなかった。

 

「あの聖教会の神官……しかしまぁ、よくこの道程を乗り越えてきたものだ。神の加護を与えられたお前と違って、あの男は明らかに魔力量が足りていない。体も貧弱そうだったし、途中で野垂れ死んでもおかしくなどなかっただろう」

「そんなこと――彼は白魔術の天才だ! 魔力量が足りていないなど……」

「本来、命を賭した白魔術であれば――魔族である俺の体など簡単に切り裂いていたはずだ。……お前との旅で、随分と無茶をしたようだな?」

 

 コツ、と魔王が一歩こちらへ近づいてくる。

 長い指先で宙に丸を描くような仕草をしたクラウジットは、相変わらず優雅な笑みを湛えたままだった。

 

「そもそも、たった二人で城に乗り込んでくる勇者軍など聞いたこともない。メーデルダリン聖王国の勇者どもは、いつだって疎ましいほどの人間どもを送り込んできたはずだが……旅の途中で全員死んだか?」

「……それ、は」

 

 魔王が持つ、千里を見通す瞳――それがある以上、彼は勇者軍がどうして私とレインの二人きりだったのかという理由を知っているだろう。

 こちらの気力を削ぎ、心を揺さぶってくる。魔族どもが使う常套手段だ。

 

「それとも――余程、人望がなかったのか。そう、人間どもは兎角欲望に弱いからな?」

 

 ぐっと声が近くなり、私はおずおずと顔を上げる。

 すると、愉悦に歪んだ魔王の顔がすぐそこに迫っていた。

 

「金と権力、あるいは性欲や矜持……奴らは平民の女が由緒正しき聖剣に選ばれたことを認めたくはなかったのだろう?」

 

 耳のすぐ横から聞こえてくる声は明らかな侮蔑と嘲笑を孕んでいて、私は奥歯をぐっと噛みしめる。

 ……彼の言うことはなにも間違ってはいない。

 半年前に聖王国を発った軍勢は、ものの三月で瓦解した。

 ――曰く、聖なる啓示を受けたのが女であるというのが気に食わない。

 ――曰く、王国側からもたらされる恩恵があまりにも少なすぎる。

 ある者は自らが魔王を倒すのだと勇み足で敵陣に突っ込んで炭となったし、ある者は美しい淫魔の虜になって翌朝には枯れ枝のように打ち捨てられていた。

 そうして誰も彼もが、自分の欲に負けて軍を離れ、あるいは死んでいったのだ。

 

「それに比べれば、あの死に損ないの神官はまだマシというわけか――いや、あれもなかなか……」

「……死に、損ない?」

 

 半月の間の、地獄のような日々を想起させられていた私は、その声に思わず動きを止めた。

 

「まさか、レインは生きているのか?」

「――生きてはいる。生命維持活動を止めたわけではない。遠路はるばる我が城へとやってきた客人を、むざむざ死なせはせんよ」

 

 何故、クラウジットが敵対者であるレインを活かしておくのは理解ができなかった。

 だがあれほどの魔術を放ったレインが生きているという事実が、心をがんじがらめにしていた罪悪感を振りほどいていく。

 

「そ、そうか……レインが生きて……」

「だが、まともな状態ではないな。あの男は自らの足りない魔力を生命力で補っていたようだ。気力だけでようやく、この魔王城にたどり着いたということか……人間として生きていたとしても、残されている時間はさほど多くはあるまい」

「まさか! だって、レインはいつも……いつだって、索敵や防御を一手に引き受けてくれていた。生命力を魔力に変換するなんて、そんなことをしていたらいつかは――」

 

 体中の血の気が、一気に引いていく。

 確かに、白魔術は大変扱いが難しいものだ。膨大な魔力を必要とし、人間の生きる活力を引き出して傷を治癒する。

 そしてその使い方次第では、自分の体の内に流れる生命力を、魔力に変換することも可能――だが、それは実質寿命を縮めているのと変わりない。

 

「お前はなにも知らなかったようだな。無理もない……神の加護を与えられ、無尽蔵の力と魔力を与えられた勇者に、凡人の痛苦はわからぬものだ」

 

 甘く、優しい声。

 先ほどまでとは違う声音が、鼓膜に絡んで離れてくれない。

 

「可哀想に、だが選ばれた者はそうでなくてはならぬ。勇者とは、あるいは魔王とは……極限まで傲慢であるべきだ。世界を両断する力を持つような者は、道端の石に気を止める暇はない。永い時を生きる俺とは異なり、他人を慮る猶予などお前にはありはしないのだから」

 

 一度、二度、強く心臓が脈打った。

 なにも知らなかった。気付くことすらできなかった。

 大切な仲間なのに、彼が苦しんでいることを――文字通り命を燃やしていることなんて、私はなにも知らなかった。

 

(傲慢……その通りだ。私はなにも知らなったし、知ろうとしていなかった。苦悩している人がいることも、痛みをこらえている人がいることも……だから、みんな私の元から離れていった)

 

 体から、どんどん力が抜けていく。

 人々が私の元から離れていったのは、私が女だからだと思っていた。聖王国の勇者たちは誰もが男性で、歴代を見ても女性でありながら勇者になった人物はいない。

 前例のない女の勇者が、神の力を行使する――それに耐えられずに離れていく人々を、どう止めればいいのかと諦めてもいた。

 

(違う……私が、なにも知らなかったからだ。誰の痛みにも、苦しみにも、寄り添ってこなかったから――)

 

 今思えば、すべてが私のせいだったのではないだろうか。

 

「こうなってはもう、お前に勝ち目はない。わかっているのだろう」

「そんなことは――言われなくても理解している。……殺せ。これ以上生きて、恥を上塗りするくらいならば――いっそ死んだ方がマシだ」

 

 聖剣は折られ、聖盾も壊された。討つべき魔王に敗北した勇者の行く末など、死以外の何物でもない。

 私たち人間と魔族の戦いは、もう何百年も繰り広げられてきたものだ。過去数百の勇者が死に、何人もの魔王が死んだ。

 私も、その敗れた勇者の一人になる。孤児でありながら聖教会に拾われ、勇者として数年を過ごしていたが――正直、もう疲れてしまった。

 

「殺してくれ……頼む。もう……」

 

 レインのことだけが気がかりだったが、生きてさえいるのなら――或いは、この城から抜け出すこともできるかも。

 ぎゅっと目を閉じて、最期の一撃を待つ。

 すると、頭上から呆れ果てたようなため息が聞こえてきた。

 

「どうしてお前たち人間は、揃いも揃ってその短い命を無為に散らそうとする? あの神官もそうだったが、高い資質を持つ者が簡単に命を投げ出すなど……貴様ら人間の浪漫趣味にはほとほと呆れ果てる」

 

 うんざりしたように吐き捨てたクラウジットは、すっと立ち上がると深い溜息を吐いた。

 

「俺は人間の傲慢さや弱さ、そして欲望こそが本質であると思っている。魔族以上に欲望に忠実な者もいれば、清廉な見た目の内側に醜悪極まりない傲慢さを宿した者もいる――実に多様性に富んでいて、その繁殖速度や世代交代もそこそこ早い。これを外から眺めているのは、実に愉しいものだ」

 

 魔族を束ねる王の視座は、私のような人間には到底理解しがたい。

 ぼんやりとその声を聴いていると、彼はそっと私の首に手を当ててきた。

 

「あ……」

 

 やっと死ねるのかと思ったが、指先が触れている場所がじわりと熱くなるばかりで痛みはいつまでもやってこない。

 

「だが、その非効率さにおいては心から軽蔑する。生まれた地位や財産の多寡、性別や年齢の違いなど、我ら魔族からしてみれば些末極まりないことでいつまでも醜く争っている……ゆえに、我らと人間どもはいつまで経っても相容れない」

「お前たち魔族は、効率的だとでも言いたいのか……」

 

 応えの代わりに、そうだと言わんばかりの妖艶な笑みが広がる。

 首に押し当てられた指先はじわじわと熱がこもり、妙な予感に背筋が粟立つのがわかった。

 

「そうだ。我らは実力主義かつ効率主義でな――先ほどの神官やお前のような、力の持つ存在をむざむざ殺すのは惜しいと思っている」

 

 助けてやろうかと、甘い声が囁いてくる。

 心の弱いものであれば受け入れてしまいそうになるほど優しく、とても頼もしい声音――だが、いくら剣を折られたと言っても私は勇者だ。魔王の言葉に耳を貸してはならないと、頭の中で警鐘が鳴り響く。

 

「貴様に助けられるくらいなら、ここで死んだほうがマシだ」

「生存本能に嘘をつくのは得策ではないぞ。勇者よ――なに、俺とてお前が馬鹿正直に首を縦に振るとは思っていない」

 

 魅了の魔眼をすっと細めた魔王が、緩やかに右手を上げた。

 破滅を告げる黒魔術の発動かと思ったが、彼はその長い指先をパチンッと鳴らすだけだった。

 

「は……」

「勇者であるお前の罪は、他者を顧みなかった傲慢さだ。だが俺は、それこそが愛しいと思うぞ――無自覚の傲慢、無垢な僭越を持つ女の勇者など、そうそう現れるものではない」

 

 ぺたんと地面に座り込んだ私の背後から、なにかが這いずる音が聞こえた。

 魔物の群れかと思い後ろを振り向くと、そこにはおびただしい数の触手がとぐろを巻いていた。

 

「ぐ、魔物か――」

「違う。それは魔力受容体だ――いわば魔力で動く俺の体の一部だと思っていい。下等な魔物どもと一緒にされては困るな」

 

 冷たく吐き捨てたクラウジットがクイッと指を曲げると、触手たちはうぞうぞと意志を持ったように動き始める。

 そのおぞましい様子に身震いし、折れた聖剣に手を伸ばそうとした瞬間――人肌程度の温もりを持った先端がずろろっ……と伸びてきて腕を掴んだ。

 

「ひぃっ……! は、放せ!」

「どうせ捨てる命ならば、戯れ程度には付き合ってもらおう。なに、心配するな――舌を噛んで死なせたりはしない。神から授けられたお前の魔力は、本来魔王である俺の魔力とは相反するものだが……」

 

 ずるっ、ぬるっ……と次々と触手が伸びてきて、腕や足に巻き付いてくる。

 いくら魔王の受容体と言えど、所詮は下位の魔物を模倣したもの――本来ならば聖鎧の力ですべて跳ね返すことができるのだが、それも破壊されてしまった現状ではろくな抵抗もできない。

 

「ぐぅっ……」

「今のお前ならばちょうどいい。心が脆く崩れかけ、清廉な傲慢さを自覚したお前の魂は――今、神よりも俺の方に傾いている」

 

 うねうねと蠢く触手は、ボロボロに壊れた聖鎧の隙間や服の袖からゆっくりとその内側に入り込んでくる。

 ねっとりとした、妙に甘い香りがする粘液を纏い――じっくりと嬲るように、触手が肌の上を舐っていくのがわかった。

 

「は、ぅっ……♡なんだ、これっ! こんな声――や、やめろ!」

 

 一瞬、ぞわぞわっ……♡と体が大きく震えた。

 軟体の下等生物に触れられて気持ち悪いはずなのに、媚びるような声がこぼれ落ちたことに動揺を隠せない。

 

「そもそも魔力受容体というのは、お前の魔力を吸い取り、俺に還元するためのアタッチメントのことだ。お前が快感を感じるごとに漏れ出る魔力を、可能な限り吸収する」

「そんなの――か、快感など感じるわけが、っ……! ひ、やだっ……♡」

 

 服の下の潜り込んできた触手たちが、ぬちぬちと卑猥な音を立てながら体をまさぐってくる。

 まるで樹木に絡まる蔦のように、体のあちこちへ触手が巻き付く――不快で気味が悪いのに、体から力が抜けて身動きが取れなくなってしまう。

 

「いや、ぁっ……! やだ、気持ち悪いっ……!」

「なんだ、年頃の女のような声も出せるものだな。……だが心配は必要ないぞ。人間のように悪戯な拷問を加えることは美学に反する」

 

 そのまま触手でこちらの体をひねりつぶすことも可能だろうに、魔王は一向にそれをしない。

 それどころか、体をまさぐってくる触手の感触はとても丁寧だった。

 

「ッは、ぁっ……♡なんだ、っ……体、が――」

「ごく微量の魔力を常に流し、体の力を奪っている。それと同時に高純度の媚薬が滲出するように作っているんだ……あまり抵抗をすると媚薬の過剰摂取で廃人になるぞ」

 

 抵抗したくても、体がほとんど動かない。

 体がどんどん熱くなって、触手が這いずり回った場所はひどく感覚が鋭敏になったような気さえする――やがて触手の先端が丸い胸の尖りを捉えると、悲鳴を上げたくなるほどの怖気と快感が同時に襲ってきた。

 

「ひ、ぁあぁぁっ♡♡」

 

 ぢゅぷっ♡にぢっ♡と胸の先端に吸い付かれ、そのままちゅっぽちゅっぽ♡と乳首にむしゃぶりつかれる。

 何度体を捻ろうとしても、全身に巻き付いている触手は一向に振りほどけなかった。

 

「こんな、っ……魔王に、辱めを受けるなんて……!」

「辱めているわけではない。魔力の摂取には皮膚接触より粘膜接触の方が効率がいいだけだ。……まぁ、お前のその惚けた表情を見るというのもまた一興か」

 

 身をかがめたクラウジットが、そっと長い指先で顎を捉えてきた。

 ――じっと見つめられていると、ひどく安心するような気がする……。

 

(だめ、だ……これは、魅了の魔眼……! 真正面から魔力を流し込まれたら、今の私じゃ……)

 

 抗いがたい安心感と、どうしようもないくらいに彼に従いたくなっている衝動。

 ガクガクガクッ♡と体を震わせながらも、私はなんとかして魔眼の効果を逃れようと目を逸らした。

 そうすると、クラウジットは面白がるようにクッと喉を鳴らす。

 

「あくまで反抗するか。……まぁいい。お前のそういう、勇者らしい傲慢さを愛しく思っていたところだ」

「ぅあ♡あぁあぁぁっ♡♡♡やめ、ろぉっ♡ゃ、んんっ……触れるな! 私に――ッは、ぁんっ♡」

 

 逃げたいのに、感じちゃいけないのに――体が粘液でヌルついていくごとに、唇の端から甘ったるい声が漏れてしまう。

 自分が嫌になるほど女であると見せつけられるような、甘美で逃れがたい快楽が全身を這いずり回って、必死に堪えていたものを暴き出してしまう。

 

「ン……強情っぱりだな。まぁ、それくらいの気概がないと勇者などは務まらんか? ならばこちらも手を尽くそう」

「ん゛むっ♡」

 

 パチッ、と乾いた音が再び鳴り響くと、細い触手がいくつも絡まったものが咥内に押し込まれた。

 それぞれが別の動きを見せる触手たちは、口蓋に歯列、舌の裏側までもを同時に擦り上げてきた。

 

「ぉ゛、ごっ……♡♡んぉ♡ぉ゛、っ……んぐぅうっ♡」

 

 柔らかな蛸足に似たそれを噛み千切ることは、いつもなら容易だったはずだ。

 それなのに、あろうことか私の舌先は触手の挿入を受け入れ、自分からそれを絡ませてしまっている。

 

(だめ……こんな、の――魔物に、口の中犯されて……感じてるなんて――っ)

 

 勇者失格。

 その言葉が頭をよぎるのと同時に、今まで浴びせかけられてきた言葉を次々と思い出してしまう。

 

「ん゛ぐ♡んっ……♡♡ちゅぽ♡ぢゅ♡ぢゅるるっ……♡♡」

 

 口の中いっぱいに柔らかい肉の槍を突き立てられているみたいだ。

 心でどれだけ抗っても、体が言うことを聞かない――まるで乳を吸うようにちゅぽちゅぽ♡と触手の先端を舐っている私を見て、クラウジットはそっと目を細めた。

 

「そうだ。それでいい――快楽に抗うのは苦しいだろう? ここまで長い旅を続けてきた褒美だと思え」

「ん、ぉ゛……♡♡」

 

 熱砂巻き起こる砂漠を越え、永久凍土に閉ざされた海を渡り――一人また一人と仲間が去るのを見送りながら、二人きりで旅をしてきた。

 そのご褒美が、これだけ甘くて悦いものなら……受け入れてしまっても、いいんじゃないだろうか。

 

(だめ、っ……こんなの、レインを――彼の決意を、裏切るみたいな……)

 

 ともすれば快感に流されてしまいそうになるのを、仲間の顔を思い浮かべてなんとか正気を保つ。

 そうだ。いくら生きているとは言え、レインがあれだけ苦しい思いをしたのに私ばかりが快楽を受け入れるなどあってはならない。

 

「こ、のぉっ……」

 

 渾身の力を振り絞って、なんとか咥内から触手を引きずり出す――媚薬粘膜が口の中で暴れまわるのですら気持ちよかったが、それでもようやく触手の先端を吐き出すことができた。

 大きく深呼吸をして新鮮な空気を取り込むと、心なしか頭の芯が冷えてくるような気がする。

 

「そのまま快楽を貪っていればよかったものを。……だが、いいな。流石勇者、魔力の味は一級品だ」

 

 ちろりと舌なめずりをしたクラウジットが笑うと、触手たちはその動きをさらに活発にした。

 

「体はろくに動くまい。……頭の中を弄られたくなければ、無駄な抵抗はやめて俺のものになれ。――その方が、お前にとっても幸せなはずだが」

「魔王に従うことが私の幸せだと? 笑わせるな!」

 

 床に転がり落ちた聖剣の柄を握り締め、一気に振り抜く――体にまとわりついていた触手は、聖なる力を纏った剣の一振りであっけなく消え失せた。

 

「……受容体を弾いたか。しかしそれだけだ。俺本体を叩くほどの力は残っていないだろう」

 

 そうだ。彼が言う通り、既に私にはクラウジットを倒すほどの魔力も、体力も残っていない。

 それでも――出来損ないの勇者でも、恥の上塗りをする前に自らの命を終わらせるくらいはできるだろう。

 

「斬るのは、お前じゃない」

 

 心を、尊厳を、この男に凌辱されるくらいなら。それならいっそのこと、自ら命を絶った方がマシだ。

 

(すまない、レイン――)

 

 心の中で友への謝罪を行って、残った聖剣の刃で自らの首を落とそうとする。

 

「……え?」

 

 ――だが、それは敵わなかった。四方から再び延ばされた触手が、まるで私のことを引き留めるように剣や腕にまとわりついて動きを封じている。

 

「なんで……し、死なせてくれ! お願いだ――もう、私にはこれしかっ……」

「何故死のうとする? 厭世的な者は魔族にも存在しているが、それでも自死を選ぶ者はない。ほとほと理解しがたい――それほどの資質を、それほどの才気を持ちながら、なぜ……?」

 

 意味が分からないと首を傾げたクラウジットは手近な触手を二、三本手元に寄せると、それで更に私の体を締め付けた。

 

「ぐぅっ……いや、だぁっ……! ぁ、魔物に嬲られて、恥を晒すくらいなら、っ……」

「違う。お前が恐れているのはその本質の発露だ。突きつけられる快楽に恐れをなし、淫らな本性を暴かれることを危惧しているだけだ」

 

 滑らかな声に耳朶を犯され、頷いてしまいそうになる。

 これは全てクラウジットの策略だ。彼の言葉は一見論理的に見えるが、ただ私を貶め、魔力を奪い取ろうとしているだけに違いない。

 

「触手の粘液を、咥内で摂取したな? ならばもう人間には抗えまい……無駄な抵抗はやめてしまえ」

「ふ、ぅううっ……♡♡」

 

 ぎちぃっ……♡と腕を縛り上げられただけで、体が震えるほどの快感が駆け抜けていく。

 再び力を失った指先からは、カランと寂しげな音を立てて聖剣がこぼれ落ちた。

 

「他者を顧みず、自らを偽り自死を選ぼうとするその傲慢さ……ますますいい。気に入った」

 

 その醜悪さからは想像もつかない巧みな動きで鎧を外してきた触手は、肌着の上から体をまさぐってくる。

 布地から浸透してくる粘液は確実に肌を焦がしてきて、悲鳴を上げないように唇を噛むので精いっぱいだったか。

 

「しばらくソレと戯れているがいい。頑なな勇者が乱れるさまを――俺は特等席で見せてもらうとしよう」

「ひ、っ……♡くぅうっ……このっ、いい加減にしろ! どこまで人を弄んだら――ひァんっ♡」

 

 ぐぢゅっ♡と嫌な音を立てて、触手が再び両胸を弄りだす。

 花弁が開くようにくぱ……♡と先端が裂けた触手で乳房を包み込まれ、服の上からきつく吸い上げられてしまった。

 

「あ、ぁっ……♡やだ、っ……♡♡ひぁ♡だめ、ぇっ……♡」

 

 ぢゅるっ♡ぢゅるるっ♡♡と粘っこい音が、やけに頭の近くで響いている気がする。

 肉色の触手に胸を吸われ、先端がジンジンと熱を宿す――上擦った声を出すまいと食いしばった唇も、漏れ出す喘鳴を押しとどめてはくれなかった。

 

「は、んっ……♡んっ♡んぅ♡♡」

 

 ちゅぱ♡ちゅぱっ♡♡ぢゅるるっ♡♡こりゅこりゅこりゅっ♡♡くにゅっ♡

 触手にひたすら乳首を吸い上げられ、時折内側の肉襞でくりくりとその場所を擦り上げられる。

 次第に体の中の熱が高まっていって、私はいつしかもじもじと足を擦り合わせながら、与えられる快感に溺れていった。

 

「あ♡だ、めっ……♡おっぱい吸っちゃ、ッあ、……♡」

 

 下着のように乳房に覆いかぶさってきた触手が、まるで乳しぼりをするようにうねうねと蠢動する。その度に柔らかい肉は形を変え、尖った乳首を引き絞られるたびに震えが止まらなくなった。

 

「は、ぁうっ♡ンぅ♡ぉ゛、っ……♡♡♡」

「布があるとうまく揉めんようだ。邪魔だ、服は全て溶かしてしまえ」

「えっ、待っ――いやぁっ!」

 

 魔王の命を受けた触手が、ボタボタと服の上に粘液を垂らす。

 布が焦げる嫌な臭いがしたかと思えば、一切皮膚が傷つけられることなく衣服だけが溶かされていた。

 

「服、が……んぁ、ぁあっ……♡♡いやだ、っ♡ぁんっ♡あ♡おっぱい揉みながら、っ♡乳首吸うのダメぇっ……♡♡」

 

 ぢゅるるるるっ♡と音を立てて粘液まみれの乳房に吸い付かれ、腰がくね♡くねっ♡と淫らに揺れ動いてしまう。

 触手の粘液は肌を伝い、乳房だけではなく鎧を失った下半身の着衣までもを溶かしてきた。

 

「く、ぅんっ♡やめ、てぇっ……♡あ♡あっ……それだめ、っ……♡♡」

 

 腰から太腿に垂れてきた粘液が、腰布や下着を綺麗に溶かしていく。

 そうしてほんの数分も経たないうちに、先ほどまで聖なる鎧に包まれていた私の体は素裸に剥かれてしまった。

 

「ぁ、い、いやっ……」

「勇者として長い旅をしてきた割に、傷のない体だ。あの神官が側にいたからか?」

 

 魔王の紅い瞳が、まじまじと私の裸体を眺めている。

 宿敵の前で裸体を晒す羞恥と憎悪はもちろんあったが、大きな問題はそこではなかった。あろうことか私の体は、彼の視線にさらされて熱を宿し始めているのだ。

 

「あの男が劣情を抱き続けていたというのも、これならば理解できるというものか」

「は――なに?」

 

 すっと目を細めたクラウジットの言葉に、思わず息をのんだ。

 

「知らなかったのか? お前のすぐ隣に立って旅をしてきた男は――世にも醜悪な劣情をお前に抱き、歪んだ恋心を持て余していた。……深層心理を抉じ開けたらすぐに白状したぞ?」

 

 ニィ、と唇を吊り上げる魔王の姿に、腹の底から怒りが込み上げてくる。

 レインほど心の清らかな人間を私は知らない。幼い時から神殿で神に仕えていた彼を貶める発言は、いくら快楽に囚われていようと許せるものではなかった。

 

「でたらめを言うな! レインがそんなこと――そんな醜悪なことを考えるわけが……」

「それが、お前の傲慢だ」

「ん゛、っっ♡♡♡」

 

 ふぅ、と呆れたように溜息を吐いたクラウジットは、パチンッと軽く指を鳴らした。

 その瞬間にまとわりついていた触手がギリギリと乳房を搾り上げ、包むものがなくなった足の合間にぢゅるんっ♡と滑り込んでくる。

 媚薬粘液と纏わせたイボ状の触手が割れ目を擦り上げたことで、腰から背筋を電流に似た快感が一気に駆け上がってきた。

 

「ぁ゛♡ぁ゛、っ……♡♡ひぁ♡や、めろぉっ……♡」

「先ほどから聞いていれば、お前はあの男をとても信頼しているようだ。だがそれが過ぎればどうだ? 個の生物としての在り様を否定し、お前の想像の中の『レイン』を作り上げる――これは信頼ではなく傲慢だ」

 

 魔王の声が、じわじわと頭の中を嬲ってくる。

 胸の尖りをつんつん♡と触手の先端で転がされ、イボが隆起した別の触手でおまんこをぢゅるぢゅると擦り上げられながらその声を聴いていると、正常な判断など到底できるはずもなかった。

 

「苦しんでいたぞ、あの男は……お前からの信頼に応えようと、性欲などまるでない聖人を装おうとしていた。……だが若い人間の男が、本能の衝動にそう容易く抗えはしない」

 

 甘い声が、頑なに拒絶しようとする心を解きほぐしてくる。

 膣口からたっぷりと媚薬を漬け込まれ、はふぅっ……♡と熱い息を吐きだした瞬間に、体から一気に力が抜けた。

 

「勇者であるお前ですら、快感に身を焦がしているというのに――他人のそれを否定するのは烏滸がましいぞ」

「ぁ……♡そう、だ――私、また……ンぁあっ♡ぁ゛♡やめ、ンっ♡おまんこ擦らないでぇっ……♡♡」

 

 ぢゅるるっ♡♡と嫌な音を立てて、足の間で触手が前後に動き始める。

 敏感になりつつある秘裂を複数のイボがぢゅっぽぢゅっぽ♡と擦り上げ、自然と腰が揺れてしまった。

 

「んぁ♡や、ぁんっ♡腰あちゅ、ぃ♡ひ♡ひぃんっ♡♡♡」

 

 長い触手が一度往復するたびに、大小バラバラのイボがおまんこを擦り上げていく。

 入口のところまでならまだしも、それまで触れたこともなかったクリトリスを一気に擦り上げられ、拷問にも近しい愉悦に悲鳴が上がった。

 

「ひぁ、ぁあっ♡♡やら、っ♡ゃ゛、ぁんっ♡♡だめ♡そこはっ……♡♡♡」

「いいぞ。そのまま娼婦のようにいやらしく腰を揺らして果てろ――喜べ、人間の身ではそうそう味わえぬ快楽だぞ」

 

 ぎゅぽ♡ぎゅぽ♡♡ぢゅぞぞぞっ♡♡ぢゅるっ♡♡ぬぢゅ♡ぬぢゅっ♡♡

 乳首とおまんこ、そしてクリトリスの三点を同時に嬲られ、過ぎた快楽に体が耐えられなくなる。

 お腹の奥がきゅんっ♡きゅんっ♡♡と疼いてどんどん熱くなる感覚に、私は何度もいやいやと首を横に振った。

 

「ぁ♡♡あ、んんっ♡♡ッぉ゛♡やみぇへぇ♡♡全部一緒にさわんないれぇ♡乳首も♡おまんこも♡♡おかしくなる♡♡お゛ッ♡ぉぁあぁ゛ッ♡♡」

 

 柔らかな乳肉が、熟した果実を潰すようにぐにぐにと形を変えられていく。

 それでも無慈悲な受容体はお構いなしに性感帯への刺激を続け、無理矢理に快感の極地へと引き上げられてしまう――それに抗うこともできず、私はゆさっ♡ゆさっ♡と胸を揺すり、腰を震わせながら、強制的な絶頂を迎えさせられた。

 

「ッひ♡♡いや♡いやぁっ♡触手なんか、っ……こんなモノにイかされたくない♡♡んァ♡助けて♡誰かぁっ……♡ぁ♡ッんぁあっ♡♡♡」

 

 コリュコリュコリュッ♡♡としつこく触手のイボにクリトリスを擦り上げられ、そのまま体が一気に強張ってしまう。

 息が止まり、全身の毛穴がぶわっと開くような感覚を覚えた後で、弛緩した体が前のめりに崩れ落ちた。

 

「ッお゛……♡お゛ぉ、ほ……♡♡」

 

 初めて感じた絶頂の感覚に、思考が追い付かない。

 呼吸も苦しいくらいの快感の中で、全身にはまるで力が入らない――そんな私の体を支えるように、無数の触手が体にまとわりついている。

 

「ん、ふぅっ……♡♡は♡ぁふ、ぅうっ……♡♡」

「見事なイきっぷりだったな? 純潔の身であれほど淫らにイき果てるとは――勇者の本性は余程淫乱らしい」

「ちが、う……♡こんな卑怯な、ぁっ……♡♡」

 

 びくびくと小刻みに震える私の体を、びたんっ♡と触手が艶めかしく叩いてくる。

 

「はぅんっ♡♡」

「すっかり雌らしい声を上げるようになったな。……それに――やはり得られる魔力の質がいい。魔王と勇者の魔力は正反対であると思っていたが……性質としては似ているのかもしれないな」

 

 愉悦が滲んだ声音で笑うクラウジットは、ぐったりとした私の顎を指でとらえて美しい笑みを浮かべている。

 本当なら、この指を振り払って命果てるまで戦わなければならない――それなのに、強すぎる快感を与えられ続けた私にはもう抵抗をする気力も残っていなかった。

 

「やはり俺にはお前が必要だ。世界のどこを探しても、これほどに高純度の魔力を俺に供給できる人間は存在しない――そら、褒美をくれてやる」

「え――あ、ぁ゛ッ♡♡」

 

 誰もが蕩けてしまうような完璧な笑みを浮かべたクラウジットが、もう一度指を鳴らすと、細い触手がしゅるるっ……と両方の乳房に巻き付いてきた。

 嫌な予感がする――背筋に冷たいものが流れていくその瞬間、胸の先端に鋭い痛みが走る。

 

「ッひ、ぁああっ♡♡♡んぁッ♡お゛♡にゃにこ、れぇっ♡♡♡くひ、ぃいッ♡おぁ゛♡あッ♡あぁぁああっ♡♡♡」

 

 胸が熱い――おっぱい溶けちゃう……っ♡♡

 乳首に突き立てられた極微細な針は、その先端から乳房に何かを注ぎ込んでいる。

 薬液のようなものがじゅわっ♡と体内で広がると、同時に胸全体が熱く火照り始めた。

 

「ッぁ゛♡あ、んんっ……♡や、おッ――おっぱい重い♡熱いぃっ……♡♡ひぁ♡♡あンッ♡」

「お前の魔力と俺の魔力がよりよくなじむように、乳首から直接魔力入りの粘液を浸透させた。――さほど痛みはないはずだが」

 

 確かに、彼が言う通り痛みはない。

 それどころか、乳房全体がずしっ♡と重くなってむず痒さが広がってくる。ジンジンと疼く乳首を吸盤のように変化した触手に嬲られ、その動きに合わせて腰が揺れた。

 

「あ♡ぁっ♡これっ……♡♡おっぱいぢゅーぢゅー吸われてっ♡は、ぁんっ♡♡ッひ♡ひぅうっ……♡♡」

 

 いつしか私は、質量が増した自分の乳房を持ち上げ、まるで捧げ出すような形で触手吸盤による快感を貪っていた。

 浅ましく愉悦を貪る私を見つめながら、クラウジットが魔王にふさわしいサディスティックな笑みを浮かべる。

 

「これほどの濃度の魔力を注ぎ込まれても、体にほとんど変化はなしか――やはりお前には素質があるようだな。もうあと何度かイけば、完全に俺の魔力がお前の体に浸透するはずだ」

「そ、んなっ……魔王の魔力なんて――」

 

 ドクッ♡ドクッ♡♡と心臓が強く脈打っている。

 超高濃度の魔力を注ぎ込まれ、脱力した体に浸透していく。

 

(これ――この魔力、ダメっ……♡私の魔力と結合して――ぐちゃぐちゃに、混ざってるぅっ……♡♡こんなの受け入れたら、本当におかしくなる……♡♡)

 

 私が持つ魔力が、明らかに変質している。

 目に見えずともそれを強く感じることができて、少しずつ勇者としての自分がそぎ落とされているような感覚に陥ってしまう。

 

「お前が神から与えられたその魔力は、とても密度が高いものだ。少量で高エネルギーを賄うことができる……並の魔族ならばその密度に耐えられんだろうが、俺は違う」

「は――ぁ、んんっ……♡♡」

 

 薄い笑みを浮かべた唇が、ぷちゅっ……と私の唇に重ねられる。

 長い舌がぬ゛ろぉ♡と歯列をなぞり、唾液をたっぷりとまぶしながらこちらの舌を絡めとってきた。

 

「ん゛む、ぅっ♡ちゅ♡ぢゅるっ……♡♡ん♡んっ♡」

 

 キスなんて、したことがなかった。

 勇者として使命を受けてからは、普通の女の子のように恋に心を躍らせたり、ふとした異性との触れ合いに頬を赤らめることもしたことがない。

 

(ぁ、唇――熱くて……キス、きもちぃ……♡)

 

 頭の中がぽやんとして、誘われるがままに舌を絡め合ってしまう。

 初めてのキスがこんな形で――それも憎むべき魔王とすることになるなんて、少し前の私だったなら舌を噛み切って死ぬべきだと断言していただろう。

 

「ぁ、むぅっ♡んちゅ♡ちゅっ♡♡は……♡ぁんっ♡」

 

 ちゅるっ……♡と音を立てて唇同士が離れると、お互いの舌を透明な糸が繋いでいた。

 名残惜しげにその糸が途切れると、私はがくっとその場に崩れ落ちた。咥内の粘膜から直接魔力を吸い取られ、体が思うように動かない。

 

「ぁ……♡あ、はっ……♡♡」

「こうして誰かに触れられるのは初めてだろう?」

「っ――何故、こんな……お前の魔力は先ほど、痛いほど感じたはずなのに……」

 

 魔王城の中に蔓延している魔力はあれだけ体を苛んできたのに、クラウジットとのキスで感じた彼の魔力はむしろ心地好いものだった。

 自分がこの男のことを受け入れているようで気味が悪いと震えあがったが、その問いに魔王は静かに答えを告げる。

 

「他人を攻撃するための魔力の使い方をしたまでだ。あるいは――それだけお前の体が、俺の魔力を受け入れ始めたということか」

「そんなことっ……く、ぅんっ♡」

 

 ギリギリまで削がれた戦意を、股間を擦る触手の動きがさらに押し崩してくる。

 

「あ♡ぁんっ♡や、これっ……♡♡ひぁ、やめてぇっ……♡」

「一度達した後だと、より悦いものだろう? ほら、口を開けろ――今度はお前が、俺のことを求めて舌を絡めるんだ」

 

 美しい造形をした顔が近づいてくる――先ほどのキスで快感を教え込まれた私は、無意識に唇を開き、かすかに舌を伸ばして彼のことを受け入れてしまった。

 

「んぁ、っ……♡♡んぅ♡ちゅぷっ♡♡ん゛む、ぅっ♡ちゅ♡ん゛んぅ♡♡」

 

 ちゅぱ♡ちゅっ♡♡ぷちゅぅっ♡♡れろ♡れろ♡れるぅっ……♡♡

 目を閉じて、咥内をかき回される感覚に集中する――熱い唇が二つ重なり合って、二人分の魔力がぐちゃぐちゃに入り混じる。

 深い愉悦に震える体をクラウジットの腕に抱きしめられても、もう抵抗はできなかった。

 

(すごい、ぃ……♡キスってこんなに、気持ちよかったんだ……♡♡頭の中トロトロになっちゃう♡)

 

 ここで抵抗をやめたら、もっと気持ちよくしてもらえるんじゃないだろうか。

 そんな考えが頭をよぎって、重たい腕が持ち上がる。

 

「は……♡も、っとぉ……♡♡」

「貪欲だな。だが、肉の愉悦というのは強烈だろう? お前たちが神などから与えられる精神の充足などより、余程――」

 

 上擦った声で懇願すると、クラウジットはそっと顔を上げて私の背後に視線を向けた。

 

「俺の魔力は体に馴染んだか? 上手く扱えるようになったのならば手を貸せ。……勇者を堕とすぞ」

 

 その言葉は、目の前の私にかけられたものではなかった。

 

「は……ぇ……?」

「はい――随分楽になりました。魔力が体に満ちて、とっても気分がいい……今ならどんな上位魔術でも使えそうです」

「頼もしい限りだな。……おい、喜べ勇者よ。お前の友が来たぞ」

 

 柔らかくて、他人を安心させるようなその喋り方には覚えがあった。

 いや、覚えなんてものじゃない――幼い頃から毎日のように聞いていたその声は、軽く弾むような響きで私の鼓膜を揺さぶってくる。

 

「は、レイン……?」

 

 コツ、と小さな靴音を響かせてやってきたのは、先ほど魔王に敗れたはずのレインだった。

 圧倒的な魔力を受けて真っ青になっていた肌は微かに上気し、足取りは軽やかにこちらに近づいてくる。

 

「勇者様……あぁよかった! 怪我はありませんね? ……魔王様との戦闘でこの身体に傷がついたらどうしようと思ってた……♡」

 

 パッと表情を明るくしたレインが、すっかり裸に剥かれた私の体を見つめている――強い羞恥が頭をもたげてきたが、すぐにその様子がおかしいことに気が付いた。

 

「レイン、なんで……なんで、この男を魔王様なんて……」

 

 レインは、誰よりも心根の清らかな人。

 私が知る中で最も悪を憎み、善を愛する彼が――何故、魔王のことを敬称をつけて呼んでいるのか。

 頭の中に生まれた嫌な予感が、急激に膨れ上がる。

 

「あぁ――そうだった。まだ勇者様には言ってなかったっけ……僕、魔王様に命を助けてもらったんです」

「……いのち、?」

 

 いつも通り優しく微笑むレインは、触手の媚薬粘液で濡れた私の手をぎゅっと握ってきた。

 旅の途中、心が挫けそうになるたびに彼はこうして私のことを励ましてくれたが――今はそれが、なぜだかとても恐ろしい。

 

「そう。君を逃がした後、僕は死んでもいいと思ってた。命を懸けた白魔術も彼に弾かれてしまって、もう駄目だって思ってたんだけど……魔王様はそんな僕に、チャンスをくれたんだ」

 

 うっとりと目を細めたレインが、耳元でクスクスと笑う。

 熱のこもったその声が尋常ではないことに気が付いて、私は悠然と腕を組んだ魔王を睨みつけた。

 

「貴様――レインになにをっ……!」

「俺はただ、この男が抱えていたものを開放してやっただけだ。……見ものだったぞ? 聖なるものを汚す快楽に溺れて、俺が作った幻覚相手にお前の名を呼びながら情けなく腰を振るこの男の姿は――」

 

 愉悦が混じった声で笑うクラウジットの姿に、先ほどまで体を苛んでいた甘美な熱が一気に引いていく。

 代わりに突き上げられるような怒りが増幅し、体に絡まった触手を力任せに振りほどく。

 

「なんてことを……レインを洗脳したのか!?」

「洗脳とは人聞きが悪い。……この男はずっとお前に懸想していたようだぞ? 残酷なものだ――お前はこの男を友だ友だと呼んでいたようだが、それこそがこいつを苦しめていた」

「……う、うそ……そんなの――」

 

 だって、レインはずっと私の親友だった。

 誰よりも清廉なレインが、そんな下卑たことを考えるはずがない――そう考えたところで、はたと思考が停止した。

 

(そうだ――私が、こんな風に考えるから……だから、レインはずっと悩んでいたんじゃ……)

 

 クラウジットの言葉が頭の中で何度も反響する。

 私が無意識で抱えていた傲慢のせいで、レインがずっと――この旅の間、絶え間なく苦しんでいたとしたら。

 

「ぁ、そんな……そんなの――」

「何故この男は、お前一人を逃がすために命を懸けて俺を相手取った? いくら勇者と言えど、人間というのは自分の命が惜しい生き物のはずだ」

 

 魔王の声が、レインの声とは反対の方向から聞こえてくる。

 いつしか私は、左右をクラウジットとレインに挟まれていた。耳に吹きかけられる柔らかな吐息が、敏感になった体を微かに刺激し続けている。

 

「……全て、お前を愛していたからだ」

 

 駄目押しの言葉に、体から力が抜ける。

 普通なら床に崩れ落ちているところを触手に支えられながら、私は荒い呼吸を何度も繰り返した。

 

「そん、な――だって、レイン……う、嘘でしょ? 私は聖都の女性のようにたおやかでもなければ、教養もない……そんな私に……」

「嘘なんて、悲しいことを言わないで――魔王様が言ってることは本当です。僕はずっと、あなたに憧れて生きてきた……神から選ばれた勇者様を、本当は僕の手で汚したかったんだ」

 

 聞きたくない言葉が、やけに優しく鼓膜を叩いてくる。

 レインがこんなことを言うはずない。クラウジットに洗脳されて、おかしなことを言いだしただけだ――そう反論したいのに、囁きかけられる熱っぽい言葉に聞き入ってしまう。

 

「ずっと……旅に出てから、ずっと考えていたんです。一人また一人、勇者軍から人が減っていくにつれて君は僕に依存してきてくれないかって」

「そんなの……違う、お願いレイン、目を覚まして……!」

「目なんて、ずっと覚めたままですよ。これは僕の本心……ずっと君のことを犯して、僕だけのものにしたかったんだ。魔王様が気付かせてくれた……僕は、僕はずっと……」

 

 聞きたくない――これ以上聞いてしまったら、もうレインのことを友とは呼べなくなってしまう。

 カチカチと小さく歯を鳴らして震える私は、耳を塞ぐこともできずに首を振った。

 だが、彼はそんな私に構うことなくゆっくりと口を開く。

 

「あなたを僕の精液で汚して、犯して、孕ませたかった……♡僕のちんぽを突っ込まれてあられもなく喘ぐ勇者様の顔が見たくて見たくて仕方がなかったんです♡♡」

「ッ……いや、っ……」

 

 レインがこんなことを言うはずない。きっと、彼は魔王に魂を支配されているんだ――現実を認めたくない自分が必死にそう叫んでいるが、興奮に上ずった彼の声が再び鼓膜に絡んでくる。

 

「僕はずっと、この想いを隠し通していた……勇者様が魔王を倒したら、いつかこの想いを告げようと思って――でも、もう我慢しなくていいんだって、魔王様が教えてくれたんです……♡」

「だめ……レイン、魔王の言うことなんて聞いちゃ――ぁうっ♡」

 

 触手に囚われたままの私の眼前に、ばるっ♡と長大なモノが突き出される。

 ――それは、いびつな形をした男根だった。木の根のようにねじくれて、触手に似たイボがゴツゴツといくつも浮かび上がっている。

 

(これ、が……レインの……?)

「魔力を使い果たした僕に、魔王様は再び力を与えてくれた――僕は彼の眷属、ハイインキュバスとして生まれ変わったんだ♡」

 

 いきなり見せつけられた男の人のおちんぽに唖然とする私に向かって、レインは上ずった声を出して腰を突き出してくる。

 

「……ハイインキュバス……?」

「淫魔は魔族の中でも上位の種族だ。人間の欲望に精通し、生きる力を奪うことに長けた種族――その中でもハイインキュバスは、高い資質ゆえに種族数そのものが少なくてな。試しに許容量を上回る魔力を与えてみたら、この男が適合したというわけだ」

 

 人を癒すための白魔術に突出していたレインの魔力は、とても純粋で練度が高い。

 それを上書きする魔王の力に圧倒するとともに、突きつけられたおちんぽから目が逸らせなくなってしまう。

 

(レインのおちんぽ……すごい……♡♡太くて♡ゴツゴツしててっ……♡♡こんなので思いっきりおまんこ突かれたら、誰だっておかしくなっちゃう♡戻れなくなっちゃう……♡♡)

 

 赤黒い亀頭の中心、鈴口からたらたらとこぼれる透明な先走りを眺めているだけで、喉がごきゅっ♡と物欲しげな音を立てる。

 そんな私の様子を見ていたレインは、肉茎を片手で軽く持ち上げると、切っ先を唇に押し当ててきた。

 

「ん゛、ぅっ……♡」

「物欲しそうな顔……♡僕が憧れた勇者様が、ちんぽに目の色変えてるなんて――ね、欲しいですか? 僕の淫魔ちんぽ……♡♡勇者様のちっちゃいお口でぢゅぽぢゅぽ♡って扱いてくれる?」

「ん、やっ……♡やめて、こんなモノッ……♡♡」

 

 むにゅっ♡むに♡と亀頭を唇に押し付けられて、その熱さにクラクラする。

 なんとか顔を背けて逃げようとするけれど、何度も快感を叩きつけられた体はうまく力が入らない。

 

「逃げないで……さっき勇者様が触手にイかされたところを見てたら、こんな風に勃起してしまったんですよ? 責任を取って、口まんこで淫魔ちんぽゴシゴシ♡ってしてくれないと……♡」

「んっぐ♡♡ん゛む゛ぅううっ♡」

 

 ぢゅっぽぉ♡と音を立てて、亀頭が唇を割り咥内へと突き立てられる。

 クラウジットとのキスで感覚が鋭敏になっていた口腔粘膜を、いやらしい形をした肉竿でぞりゅっ♡と擦り上げられる。

 

「ん゛ぉ゛♡お゛ッ♡んむ゛ぉおっ♡♡」

「レイン。……お前に授けた力を使ってみるといい。ハイインキュバスの魔力とお前の資質があれば、精神干渉も可能なはずだ」

 

 口いっぱいに怒張を突き立てられた私のすぐ近くで、魔王がそんなことを言いだした。

 精神干渉という言葉にビクッと体が跳ねたが、おちんぽを突き立てられたまま抵抗することができない。

 

「あぁ――そうですね♡今の僕なら最上位の精神干渉魔術だって……勇者様も、もう限界みたいだし」

 

 喉奥までずっぽりとおちんぽを突き立てられたままなので、彼の言葉に反論することはできなかった。

 だが、せめてもの意思表示としてぎゅっと目を閉じた。

 これは何かの間違いだ。目を覚ましたら、レインはいつも通り私に笑いかけてくれるに違いない。

 

「抵抗は無駄だよ。勇者様は確かに、神から絶大な力を賜った……だけど、今のあなたじゃ魔王様のそれには敵わない。ね、もう気持ちいいことを我慢することはないんです♡」

 

 ぐりゅっ♡とさらに深くまで肉棒を突っ込んできたレインが、両手で私の頭をしっかりと抑えつけた。

 ぐったりとした体を触手に固定させ、彼は無遠慮に腰を振る――その度に、ぢゅぽ♡ぢゅぽ♡♡といやらしい音が唇からこぼれ落ちた。

 

「勇者様も僕と一緒に……魔王様のモノになりましょう……?」

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